「十五少年漂流記」(ヴェルヌ)①

ヴェルヌの志こそ味わうべきでしょう

「十五少年漂流記」
(ヴェルヌ/石川湧訳)角川文庫

嵐の夜の海を漂う
一艘のスクーナー。そこには
ただ一人の大人の姿もなく、
十五人の少年たちだけが
船と格闘していた。
やがて夜が明け、
少年たちを乗せた船は
無人島へと辿り着く。
少年たちの生き残りをかけた
生活が始まる…。

SFの父と呼ばれる
ジュール・ヴェルヌの傑作漂流譚です。
無人島に漂着したとしたら
どうやって生き延びるか?
少年ならそれを考えるだけでも
わくわくしてくるはずです。
私も小学校の図書館で本作品と出会い、
貪るように読んだ記憶があります。

ところが、大人になってから本作品を
読むと、今ひとつ感動が薄いのです。
あの時の興奮は何だったのだろう?

今回再読して気付いたのは、
サバイバル生活があまりにうまく
いきすぎているという点です。
船は運良く大破を免れ、
浜まで乗り上げることに成功します。
それによって船の積荷は
ほとんど無事であり、食料・飲料水・
武器弾薬類・調度品・防寒具等が
しっかりと確保できているところからの
スタートなのです。

しかも鳥やその卵が楽に採れるし
果物類も豊富、釣りも可能で
真水も湧いている。
食料や家畜にできる動物もいる。
生活するにはちょうどよい洞穴もあり、
しかも岩石が柔らかく、
拡張工事も簡単にできてしまう。
無人島の環境も
楽園に近いものがあります。

さらには、料理も12歳の見習い水夫が
鳥や魚、けものを難なくさばき、
燻製にして保存食まで作ってしまう。
ほかにも大工作業が得意で
何でも作ってしまう13歳、
植物に詳しく、食用になるものを
見極められる15歳、
銃の名手の14歳など、
少年たちはスペシャリスト、
いやスーパースター揃いなのです。

「無人島でこんなにうまく
いくはずがない」という
先入観もって読んでしまうと
感動は薄れてしまうのでしょう。
それはある意味大人目線です。
子どもたちにとっては
「脱出不可能の無人島」であること、
「親元を離れて自分たちだけで
生活すること」の2点だけでも
十分に高いハードルなのです。
私たち大人も、今一度少年の心に戻って、
虚心坦懐に本作品と
接するべきなのかも知れません。

そしてなによりも、それまでは
まったく別物と考えられていた
「科学」と「文学」を融合させて
新しい文芸ジャンルを
切りひらこうとした、
それも次代を担う子どもたちに向けて
提供しようとした、
ヴェルヌの志こそ味わうべきでしょう。
この作品があったからこそ、
百花繚乱ともいえる現在のSF文学、
児童文学があるのですから。

(2019.7.21)

Michelle MariaによるPixabayからの画像

※取り上げた角川文庫版は、
 現在絶版のようです。
 次の文庫本が入手可能です。
 (2019年7月現在)

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